木を削りながら、思い出すのは大きな背中。
先週、奈良国立博物館で開催中の「白鳳展」に行ってきた。
薄暗い館内はたくさんの人。ガラスケースの前をゆっくりと流れていく。
お久しぶりの仏さまや、はじめましての仏さま。
お寺におられるときは見られない、横からのお姿や、後ろ姿。
正面からとは全然印象の違う方もたくさんおられて、とても勉強になる。
会場の中ほど、順番に進んできて、「さぁ、次の展示室へ・・」と振り返って
「えっ!?」
そこにおられたのは、大きな大きな仏さま。
薬師寺の月光菩薩さまだった。
今回出で来られてるのは知っていて、お会い出来るのを楽しみにしていたのだけれど、
私は20年以上お会いしてない間に、
自分の中で“等身大より少し大きいお姿” と勝手に思い込んでいた。
頭が混乱したまま、足元へ引き寄せられていく。
見上げた先には凛々しいお顔。
そっと後ろへまわらせていただく。初めて見るお背中。息をしておられるようだ。
しばらく見惚れて、ぐるり一周させてもらって、また後ろにもどって。
今生で、あと何回お会いできるかわからないけど、後ろ姿を見せていただけるのは、これが最初で最後かも・・
そう思いながら、やわらかな後ろ姿をしばらく眺めていた私。
「しっかり仕事しなさい」 そう言われた気がした。
いろいろな素材でつくられた、たくさんの仏さまにお会いした。
いつも思うんやけど、
最初からそのお姿で、そこに存在してはったように思うんやけど、そうやなくて、
誰かがつくったものなんやなぁ・・って。
誰かがつくったものなんやけど、そのことを忘れさせる存在として、そこにおられる仏さま。
私も“楽しい”と“苦しい”と両方の気持ちを感じながら、これからも彫っていくんやろうなぁ。
そんなことを考えた秋の一日だった。
昔々から今日まで、
たくさんの職人がいて、たくさんの仏さまが生まれた。
名は残らなかったけど、つくったものは残って、今もたくさんの人が手を合わす・・
そんな仏さまがたくさんおられる。仏師の仕事って、すごいなぁ。
私の父も、その中のひとり。
父のように、たくさん彫ることは出来ないけれど、
父のように、ひとつひとつ丁寧に仕事をしていこうと思う。