小さな炎を静かに燃やして

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     白生地に包まれた仏さま。縦1寸7分、横1寸3分の香合仏。

     

    仏さまの仕上げのときは、木地を汚さないように白生地に包んで仕上げをする。

    席を離れるときは、こうやってすっぽり包む。

     

    戻って、手にとって、布を開いて。

    父がしていたのと同じように、私も仕事する。

     

     

    小さな香合の蓋を開けると、蓮の上に大日如来さま。

    お気に入りの大日如来さまがおられるので、そのお姿に似せて・・とのご注文。

    久しぶりの香合仏の仕事。

     

     

    私の手元には、20代の頃に彫った大日さんの香合がある。

    若い頃の仕事は、勢いがある。

    でも、歳を重ねて、いろんな経験をしたから彫れるようになったものもある。

    仏さんのお顔は今の方がいい。

    でも、光背の火炎、これだけスカッと彫れるやろうか・・?

    そんなことを取りかかる前に考えていた。

    気持ちで負けていたのかもしれない。

     

    煮詰まって、いろんなことを考えた。

    彫りの仕事で悩んでいてもらったんやない、

    他のことで悩んでいるときにかけてもらった言葉もいろいろ浮かんだ。

     

    いろんなしんどかったことも思い出したし、

    いろんなひとにいっぱい助けてもらったことも思い出した。

     

    頑張ったってかなわへんひともいる。

    けど、

    昔の自分が出来たことが出来ひんのは我慢出来ひん。

    そこに行き着いたら、すっと道が開けた。

    私、負けず嫌いやから(笑)

     

     

    丁寧に鉛筆で下描きをして、

    三角刀で線を入れていく。

    切り出し刀で炎の曲線を彫り出していく。

    ひとつひとつ、丁寧に。

    もう大丈夫。

    動き出した小さな炎たち。

     

    もう大丈夫。

    ひとつひとつ乗り越えて、

    私はこれからも彫っていける。

     

     


    糸をほぐして

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       今年はホトトギスがたくさん咲いて。

       

       

      仕事が煮詰まっている。

      頑張っても頑張っても上手くいかないし、進んでいかない。

       

      こんなときは一旦手を離して、他の仕事を挟んだ方が上手くいく。

      経験上そうわかっていても、今回はそうしている時間がもうない。

      せめて一日・・

      今日は刃物に触らへん!

      仕事場にも座らへん!

      そう心に誓って過ごす。

       

      台所に座って、コーヒー飲みながらいろいろ考える。

       

      イラッとして引っ張って、もつれさせた糸をほどいていかなければならない。

      何をどうしたらいいのか、

      何が1番大切なのか、

      絡まった糸をまずほぐしていく作業。

       

      誰かに助けてもらえることは何もなくて、自分でなんとかしなあかんことばかり。

      諦めて、元気づけて・・心の中で自分と戦う。

       

      「大丈夫、大丈夫。」

       

      自分にそう言い聞かせる。

      少しだけほぐれた糸をもうからませないように、

      落ち着いて、ゆっくりと、でも確実に。

       

       

       


      どこまでも伸びていく

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        春の個展の際に、友人が贈ってくれた観葉植物。

         

         

        「きれいなお花もいいけど、作品展が終わっても長く一緒にいられる鉢植えもいいなと思って」

        そう言って。

         

         

        おかげさまで元気に育って、伸びすぎて重みで下がった先端から、また上向きに伸びている!

         

         

        東京と京都、なかなか会えないけれど、

        毎日このコを見ると友人のことを思い出す。

         

         

        もうすぐ会えるね!

         

        昔と変わらぬ笑顔を思い浮かべて、その日を楽しみに仕事に励む。

         

         

         


        小菊がきれいに咲いたから

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          たった1輪から、大きく育った小菊たち。

           

           

          小菊がきれいに咲いたから、お墓に持って行ってあげよう。

          そう思って、昨日出かけてきた。

           

           

          仕事場に父の写真があって、

          いつも一緒に仕事しているみたいな気分でいるもんやから、

          お墓参りもあまり行かない。

           

          花がきれいに咲いたのと、仕事がちょっと煮詰まっているから、

          気持ち切り替えたくて出かけたのもあるやろか。

           

          草抜きをしていると年配の男性が一人、ゆっくりと墓地に入って来はる。

          途中で追い越して来たひとや。

          少し離れた所から、お念仏を唱える声が聞こえてくる。

          その後、六地蔵さんの方にお参りしにまわると、自転車を押した男性が一人。

          「こんにちは」と挨拶を交わす。

           

          お墓で出会うお参りのひとは、男性の方が多い。

          私はそんなにしょっちゅう行くわけではないけど、行くたびによく一緒になるひともいはる。

          どなたが眠っておられるのかわからないけど、

          きっとみんな、

          会いたくて、話したいことがあって、ここに来る。

           

          「一生懸命彫るから、見守っててな」

          そう手を合わせて、帰ってきた。

           

          生きてはるときは耳遠かったから、こんな小さい声では聞こえへんかったよなぁ。

           

          ゆっくりと、大きな声で、

          目を見てなるべく笑顔で。

           

          長い会話は要点をかいつまんで通訳してたっけ。

           

          そんなふうに過ごしていた時間をふと思い出した。

           

           

          仕事場の写真の前にも、小菊の花。

           

           


          私の仕事

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            今年の台風にも負けなかったザクロ。綺麗に色付いて。

             

             

            気持良く晴れて、きっと観光地は賑わっていることやろう。

             

            集中して仕事していたら、身体のあちこちが不調を訴え始めた。

            ずっと座りっぱなし。

            休まなあかんとわかっていても、ついつい何時間も同じ姿勢のまま・・

             

            仏さんの仕事は、

            いつも楽しいと苦しいが綱引きしながらになる。

             

            彫り進めるにつれ、思っていることに腕がついてこないもどかしさで泣きそうになる。

             

            「これでいい思ったら、そこから先にはいけへん。一生勉強や」

             

            父の言葉が浮かんでくる。

            研ぎも彫りも、

            もっと上手くなりたいなぁ。

             

             

            どんな仕事も、

            楽しいことばっかりやないやろうし、

            圧倒的に苦しいことが多い仕事もあるやろうと思う。

             

            仕事ってそういうものやろうから、

            私も逃げずに向き合いたい。

             

             

             

            ハナミズキ、もう散ってしまったやろうか。

            少しでも長く彫ってたいけど、今日は少し歩いてこよう。

            元気に長く彫るために。

             

            無理のきかへん年齢になってきたのを自覚しながら、

            いろんな気持ちと葛藤しながら、今日も仕事する。

             

             

             

             

             

             

             


            心静かに

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              慌ただしかった10月と違い、穏やかにスタートした11月。

              今は香合仏を彫っている。

               

              季節が進み、桜の葉っぱも紅葉し出した。

              北向きの仕事部屋は急に寒くなり、母が作ってくれた膝掛けが活躍し始めた。

               

              コタツ布団を出したり、

              ラグを冬用に敷き替えたり、

              仏さんに集中したいけど、日々の暮らしもこなしていかなければいけない。

              洗濯物もたまるし、お腹も減るし。

               

              それでも「今仏さんを彫っているんや」という緊張感は常にあり、

              自分のまわりにピリピリとした空気を感じる。

               

               

              香合仏の仕事は、手を止めている時間が長い。

               

              迷っているのではない。

              見極めているのだ。

               

              掌に収まるほどの香合の中に、大日如来さまが入っておられる。

              細かい仕事やから、削り過ぎたら取り返しがつかない。

              少しずつ少しずつ、削っては目を離して、また削ってを繰り返す。

               

              久しぶりに登場した平刀。昔、父が譲ってくれたもの。

               

              私のさしがねは尺寸表記なのでわかりにくいかもしれないけれど、

              2厘の平なので、ミリ表記だと1ミリ弱。

               

              今、首回りを彫るのに使っている。

               

              こんなに細いと研ぐのも大変。

              指先の感覚を研ぎ澄まして。

               

               

              彫り始める前は、

              老眼鏡の度数を上げようか、それとも話題のハズキルーペを購入しようか・・?なんて考えていた。

               

              でも、仕事を始めると、ちゃんと見える。

              昔のように。

               

              「集中すると大きく見えるんですよ」

              って、以前はよくお客さんに言っていたけど、年齢には勝てへんなぁって思ってた。

              なのにめっちゃ見えてるやん。なんて嬉しいことなんやろう。

               

               

              ただ座って、静かに彫り続ける。

              父の声が聞こえる。

               

              「わしが言ったこと、ちゃんと覚えてるか?」

               

              覚えてるよ、お父ちゃん。大丈夫やで。

              心の中で会話しながら、彫らしてもらえる幸せを噛みしめながら、

              少しずつ、木を削る。

               

               

              この仏さまを心待ちにしてくれてはるひとの笑顔を思い浮かべながら、

              気持ち引き締めて。

               

               


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